NARAYAMA
PLANETARY VILLAGE
PROJECT

楢山集落
プラネタリー・ヴィレッジ
・プロジェクト

プロジェクトについて

 一般社団法人BOOTの矢部佳宏と申します。私は、福島県西会津町にある、西会津国際芸術村という、アートやデザインの力で地域再生に取り組むクリエイティブセンターのディレクターを務めています。国内外のアーティストや、様々なクリエイティブ人材を集め、西会津町の魅力を引き出すアート展示やワークショップを行ったり、空き家のリノベーションや移住相談、過疎地での起業アイデアを生み出したりしています。

 今、私は、「10年後には消滅してしまうのではないか。」 と言われている山深い豪雪地域、西会津町奥川郷の、そのさらに山の上の雲海を見下ろすようなたった2軒の集落、楢山集落に住んでいます。江戸時代の万治3年、1660年に私の先祖が開拓した集落で、標高が高い山の中腹にあり、視界が大きく開けている集落なので、空がとても近く感じます。棚田越しに山々を見下ろす眺めは絶景で、朝起きると家の前から雲海を望め、夜は満点の星空と天の川に包まれるような感覚になれます。楢山集落や、周辺の集落が消滅の危機にある現状を変えるためには、新たな生業が必要です。そして、その生業を通じて、忘れ去られようとしている日本の原風景が持つ可能性を広く伝え、多くの人が関われる集落にしなければなりません。空に近く、自然と人間の関係性が強く感じられる日本の原風景の中で、現代人が忘れてきてしまった「何か」を見つけてほしい。ランドスケープアーキテクトであり、 楢山集落を受け継ぐ19代目矢部佳宏が、人生の作品として取り組んでいる持続可能な未来の集落づくりプロジェクト、 それが、楢山プラネタリー・ヴィレッジ・プロジェクトです。 プロジェクトの第一歩は、「暮らすように泊まれる」宿づくり。集落内に点在する古い蔵と納屋を宿泊棟、見渡す限りの田畑や里山などは広大な庭として、訪れた人たちが、まるで住人になったように、自由な時間を過ごせる集落を目指しています。 私は、以前は海外でランドスケープアーキテクトをしていました。直訳すると、『風景建築家』という意味の職業で、 人間社会と自然との共存を図りながら、新たな風景を生み出していくという専門分野です。庭の設計から公園デザイン・ 都市計画・緑地計画など幅広い領域に関わってきました。

 実は、私がランドスケープアーキテクトを目指したのも、元はと言えば今から 20 年前の学生時代にこの楢山集落の風景研究をし、その際に自然と共生してきた風景の ” 美しさ ” を学んだことがきっかけでした。それは、限りある資源をうまく循環させて人々の暮らしを持続可能とする一つの生態系としてデザインされていて、「集落が、一つの惑星のようだ」と思える美しさを持っていました。同時に、今我々が生きている時代に生み出されている風景や、数多くの環境問題を抱える現代社会には、その “ 美しさ ” がうまく引き継がれていないとも感じるようになりました。私は、ここで学んだ人間と自然の関係性をベースに、現代の利便性やテクノロジーなどをうまく活用しながら、子供たちの未来に必要な風景を深く考えてデザインしたいという想いが生まれ、それが私のランドスケープアーキテクトとしての軸となる考え方を形成してくれました。 しかし…東日本大震災で、今まで普通にあった風景が一瞬にして消え去る姿をみた時、そしてそれが同じ福島県で発生したということもあり、今、自分にできることは、自分のルーツであり、自分にとって大切な風景の未来をつくることだ、と思い立ち、5年前に戻ってきました。あの震災をきっかけに、昔の暮らしや、自然に寄り添った暮らしを見直す動きは、震災以前よりも多くなったと思います。そして、私が楢山集落で20年前に学んだように、そこには、未来に必要な学びが沢山あると思います。ですが、今の私たちの暮らしは、集落が “ 惑星のようであった ” 近代以前の、車も電気もない時代とは大きく変わっています。小さな棚田の風景も、農地の近代化により大きな棚田になりました。私も今、この集落に暮らしてはいますが、都市部と大きく変わらない、現代的なインフラに頼った暮らしを営んでいます。そして、手を入れられない山や田んぼが増えたことにより、集落の生態系は、かつてないほどにそのバランスを崩しています。ですから、ここに宿をオープンさせることで、 集落での新しい生業をつくり、それをスタート地点として、かつての暮らしと今の暮らしの良い点をうまくつなぎ合わせながら、新しい集落の風景をデザインしていきたいのです。そこには、新しい集落の住民=ずっとここに暮らすのではなく、ここの暮らしを体験し、その魅力を伝えてくれる沢山の人々との関わりをつくりだしていく必要があると思いました。そして、この集落で感じられる楽しみや豊かさを、より多くの人と一緒に体験することが重要ではないかと思いました。そういう新しい人の流れを生むことにより、消滅の危機を脱することができるのではないか。また、私がかつて「集落そのものが、一つの惑星みたいだ」と感動した、人間が自然の仕組みをよく理解した上で生み出した風景の美しさを、また新しいカタチで生み出していくことができれば、集落の存在意義が明確になり、その価値が高まるのではないか。それが、この楢山集落− Narayama Planetary Village Project −(惑星のような楢山集落プロジェク ト)のを立ち上げた理由です。

* プロジェクト名称に使用している「Planetary Village(惑星のような 集落)」は、自らの集落研究で感じたことに加え、フランスのランドスケー プアーキテクトであり哲学者である、ジル・クレマン氏による「Planetary Garden(惑星のような庭)」の考え方にも強く共感し、着想を得たものです。

(一社)BOOT 代表理事/西会津国際芸術村ディレクター 矢部佳宏